LENCONのはじめの一歩
1人ぼっちの夏休みのはずが… 永松 玲子(ながまつ れいこ)
※サリドマイドの薬害のため、両肩から数本の指が少し出ていて、左目は失明、右目も眼球振動があり弱視(近づけば人がいるか識別できる)
重い重い電動技手の訓練が続く中、私の激しい行動に電動技手がついていけず、何度かヒューズが飛び動かなくなるという事が起きるようになっていました。そしてその度に訓練の時間がしばらくなくなり、私は自由に足を使い、物を掴み、飲み物をこぼさずに飲み、ご飯も絞めつけられずに食べ、そのおいしさを実感するたび、次にやってくる訓練の時間が嫌で嫌で仕方ありませんでした。
そんなある日、また電動技手のヒューズが飛び、ああ、自由な日々がやってくると喜んでいる時、ルームメイト同士で夏休みに家に帰って何をするという話で盛り上がっていました。え?夏休み?もしかして私、家に帰れる?とほんのちょっと期待しましたが、すぐにあきらめました。期待すればするほど訓練が伸び、家に帰る時期が伸び、がっかりするとわかってきたからです。
徳島にきて初めての夏休み。ひのみね学園内のみんなが夏休みで帰ったら、私はこの学園の中に1人ぼっちでいるの?そう思うとすごく不安になり、看護師さんに聞きました。すると看護師さんは笑いながら、「玲子ちゃん、大丈夫よ。他に10人くらい残っているから」と言われホッとしました。
さあ、いよいよみんなが待っていた夏休みです。私の部屋の友達は家族がどんどん迎えに来て帰っていきます。私はみんなを見送りながら、目にいっぱい涙がたまっていました。
本当はみんなのように帰りたい。電動技手が上手に使えるようになり、夢の1つでもあった自転車に乗るはずだったのに、あまりの重さに夢は壊れ、私はここで何をしているんだろうと、目的が分からなくなっていました。
そんなある日、突然両親がひのみね学園にやってきて「玲子ちゃん、退園できるよ。一緒に帰ろう」と言われ、1人ボッチの夏休みのはずが家に帰れることになり、私は半分幸せでした。そう、半分というのは、電動技手ははめなくなっても、きっとまた足立学園に戻されるんだと思っていたからです。