LENCONのはじめの一歩
お腹はちゃんとすくのに… 永松 玲子(ながまつ れいこ)さん
※サリドマイドの薬害のため、両肩から数本の指が少し出ていて、左目は失明、右目も眼球振動があり弱視(近づけば人がいるか識別できる)
徳島のひのみね学園から足立(あだち)学園に戻り、相変わらず電動技手の訓練から逃げ回っていた私でしたが、楽しい一泊帰省から戻ったある夜、突然目が覚め、そこが自宅ではなく足立学園の病室だと気付いた瞬間、急に激しい吐き気に襲われました。
思わず飛び起きると同時にベッドの上で大量に戻してしまい、その光景に自分でも驚き、大泣きに泣いて看護師さんを呼んでしまいました。
私の声から「ただ事ではない」と飛んできた看護師さんは、「わぁ玲子ちゃん、これは大変だ」と言いながら急いで処置をしてくれて、シーツも交換してくれました。
深夜の騒動に私は少し興奮していたようで、落ち着いて眠りにつくまで看護師さんがずっと右手を握ってくれていたのを憶えています。
翌朝、いつもの6時に目が覚めると、ものすごい空腹感に襲われ体を起こすことができません。様子を見に来た看護師さんにそのことを伝えると、「あれだけ戻したんだから、お腹が空きすぎて起きれんのよ」「今日は病室でご飯を食べておとなしく寝ていようね」と言われ、遠くに聴こえる友達の声を聴きながらご飯が来るのを待ちました。
やがて美味しそうなご飯が運ばれてきたので、私は看護師さんに体を起こしてもらって食べ始めました。でもなんだか変…。お腹はすいているのに、ご飯を少し食べるとまた吐き気がし、戻してしまうのです。何度食べても戻してしまう。結局その日は食べるのをやめ、昼も夜も水分だけをとるようにして、寝るしかありませんでした。
そしてその日を境に私はご飯を食べることができなくなり、とうとう水分も受け付けなくなって、足首から点滴を打つまでになってしまいました。
お腹はちゃんとすくのに、体がご飯を受け付けない。なぜだかわかりませんでしたが、「もしかしたら私はもう両親や妹のいるあの家に帰ることはできないのかも…」と子供心に覚悟をしました。