8 この本、おもしろかった!~わたしの一冊~
点字図書館を利用される皆さんがつなぐこのコーナー。前号のトドさんからバトンを受け
たTさんが紹介してくださるのは、柴田 錬三郎 著『図々しい奴』。
「おや、懐かしい」と思われた方もいらっしゃるのでは?かつて、映画やドラマにもなっ
たお話だそうですね。時を経て改めて読むと、また違った味わいがある本があります。
Tさんにとってこの本は、まさにそういう本だったそうです。
******* ******* *******
昭和35、6年に執筆された作品で、デイジーで28時間余の長編です。
大正8年、岡山城の見える一角で、高齢の父と歳の離れた母の子として馬小屋で生まれた
ことから、イエス・キリストをもじって切人(きりひと)と名付けられた主人公。
幼くして両親が相次いで亡くなり、極貧で天涯孤独の身となる。しかし、持ち前の図々し
さで世を渡り歩くうち、岡山城主だった伊勢田家の跡取り息子、直政(なおまさ)という青
年と出会う。
「あの城より大きな城を造る」と公言する切人は、直政に気に入られ書生として伊勢田家
に迎え入れられる。
ある時、切人と仲の良かった娘が生んだ、父親の分からぬ女の子を、切人が火事の焰の中
から救い出すも母親は焼死する。直政は、身寄りのなくなった女の子に麻理耶(マリヤ)と
名付け、乳母に育てるよう命じ、切人にも将来お前の嫁にしろと告げた後、一人上京する。
切人は、試験問題を盗ませてまで地元中学に入学したが、半年余りで落第が決まるや退学
して直政のところへ向かう…。
世間知らずで学問が嫌いだった少年だったが、多くの人との出会いの中から何かを学び取
り、人の意見に耳を傾けたり、自ら意見を求めたりして、成長していく。
作品の最後には、切人のために出資する資産家が現れ、彼の夢は更に広がるだろう。
長編作品ゆえ十分に紹介しきれないが、面白さが網羅されていて、肩に力を入れずに読み
進むことができる。
面白おかしく読むも良し、時代を懐かしむも良し、憎めない明るさ素直さや、図々しさを
持ちながら人に愛される切人の人物像を見るも良し、読者それぞれの視点で一読してみては
いかがでしょうか。