ひと
音楽で寄り添う♪
「音楽療法講師、東筑紫短期大学非常勤講師」
佐藤 佳美(さとう よしみ)氏
「先生!うちの子にピアノを教えてくれませんか。」
15年程前、主催した音楽イベントの片付けをしていると、私を呼び止める声がありました。驚いて振り返ると、そこにはダウン症の小さな女の子とそのお母さんが立っていました。「イベントで先生の姿をみて、なぜだかどうしてもうちの子にピアノを教えてもらいたいと思って…」と話すお母さんの真剣な眼差しに圧倒され、「わかりました。一度うちにお越しください。」と名刺を渡すのが精一杯でした。
私は30年程前に知人の勧めで 『ノードフ・ロビンズ音楽療法』の講義に参加した経験があります。 ロビンズ先生から直接講義を受ける 4日間は、これまでの私の音楽、音楽教育の価値観を根底から覆すものでした。 障がい児・者や認知症の高齢者と音楽を楽しむこと、そのことが彼らの困りごとを改善する助けとなること。 驚きと感動をもって帰路に着いたことを今でも覚えています。 その後もいろいろな方に教えを乞い、看護学校の講義を聴講するなど学びを深め、老人ホームで音楽療法を実践する機会も得ました。そして前述の親子に出会うこととなったわけです。
後日あらためて親子の話を聞き、そこから週1回のレッスンが始まりました。はじめは手探りの状態でしたが、一緒に歌を歌い、打楽器で遊び、ピアノを弾きました。彼女はいつも前向きに楽しんで参加してくれました。ある時、彼女のお母さんが「音楽療法って生活にも役立つんですね。今まで指の力が弱くてバスの降車ボタンを押せなかったけど、先生とピアノを弾き始めてボタンを押せたんですよ!」と話してくれました。その時に私は思いました。“音楽は生活のスキルを向上させることができる。他人とのコミュニケーションを学ぶこともできる。音楽は高尚なひと握りの人のためにあるのではない、全ての人のためにある”と。